最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)110号 判決 1950年7月25日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人近藤亮太の上告趣意について。
本件控訴趣意書において弁護人が第一審判決の事実誤認の事由として挙げている点を検討してみると、
(イ)本件水飴の売主が稲葉農業会であることは、第一審判決が証拠として採用した検察庁における永井光直の供述調書によって明らかである。上告論旨は、第一審が右の永井の供述を証拠として採用した理由の説明が無いことを非難しているけれども、証拠の取捨は事実審裁判所の自由心証に委ねられているところであって、何故にある証拠を措信したかの理由を説明する必要はないのであるから、右のような非難は不当である。
(ロ)本件水飴が未検査品であるということも、第一審判決が証拠として引用している被告人の第一審公判廷における供述によって認定できる。
以上の次第であるから(イ)及び(ロ)の主張に関しては、原判決が第一審判決を維持したのは正当である。
(ハ)昭和二二年九月一五日物価庁告示第六四一号によれば、未検査澱粉飴の販売業者販売価格の統制額は、六貫八〇〇匁入り一缶につき三九一円五〇銭であること控訴趣意書所論の通りであるが、本件は中味売りであるから、これから一二円五〇銭を引き、更らにこれに物品税七六五円を加算した一、一四四円が基準額である。従って被告人が買受けた三四〇貫の統制価額総額は五七、二〇〇円であり、買受価額三〇万円は、起訴状の通り二四二、八〇〇円の超過となる。然るに第一審判決は、超過額を二二一、三〇〇円二〇銭と判示したのであるからこれは誤算である。しかし被告人が統制額を超えた代金で水飴を買受けたという事実には相違はないのであるから、原判決は、第一審判決挙示の「各証拠に依れば原判決認定の物価統制令違反の事実を認め得る」と判示したものと思われる。のみならず控訴趣意書主張に従えば統制額超過金額は判示超過額よりも多くなって被告人のために不利益となるし、又第一審判決が科した罰金一五万円は右のいずれの計算に従っても物価統制令第三三条但書の範囲内であるし、その他前記のように比較的少額の誤算が判決の主文に影響を及ぼすものとも認められないから、原判決が第一審判決を維持したことを以て、違法ということはできない。
次ぎに量刑不当の主張については、量刑は事実審裁判所の自由裁量に委ねられていることであるから、原判決が第一審判決の量刑を相当と認めて、これを維持したからとてこれを違法というべき何等の理由もない。
論旨は、原判決の理由説明が簡単であることから推して、原裁判所は実際は記録の調査検討を怠っているのではないかと疑い、ひいてこれを基本的人権蔑視の態度となし、憲法違反の謗りを免れないものであると主張しているか、原判決の如何なる点が如何なる理由により、憲法の如何なる条項に違反するかを示さずして、漫然憲法違反の語を用いているに過ぎないから、これを以て刑訴第四〇五条にいわゆる憲法違反の主張をするものと認めることはできない。
以上の理由により刑訴第四〇八条に従い主文の通り判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)